償還請求権とは|ノンリコースでも残る責任と契約書の確認点
償還請求権とは、買い取った売掛金が回収できなかったときに買い手が売り手へ代金の返還を請求できる権利です。リコースとノンリコースの違い、民法569条が示す原則、そしてノンリコースでも残る責任まで、条文と金融庁の公表情報にもとづいて整理しました。
契約書に並ぶ「償還請求権」という言葉。意味が分からないまま署名すると、売掛先が支払わなかったときに自社が肩代わりする約束をしていた、という事態になりかねません。この権利の有無は、ファクタリングで最も確認すべき条件のひとつです。
当サイトはファクタリング209社を第三者の立場で比較し、利用者401人への口コミ調査(2026年3月実施)を行っています。この記事では、条文と金融庁の公表情報にもとづいて償還請求権を整理しました。
リコースとノンリコースの違い、償還請求権があると取引の性質がどう変わるか、そしてノンリコースでも残る責任まで扱います。読み終えたときには、契約書のどの語を探して何を確認すればよいかが分かる状態になります。
償還請求権とは|未回収時に誰が負担するか
償還請求権とは、買い取った売掛金が回収できなかったときに、買い手が売り手へ「代金を返してほしい」と請求できる権利のことです。ファクタリングの契約書でこの権利が定められていれば、売掛先の支払いが滞ったときに、利用者が肩代わりして支払うことになります。
リコースとノンリコースの違い
この権利を定めた契約はリコース、定めていない契約はノンリコースと呼ばれます。呼び名の違いは、回収できなかったときに誰が損失を被るかの違いです。
| 項目 | ノンリコース(償還請求権なし) | リコース(償還請求権あり) |
|---|---|---|
| 売掛先が支払わないとき | 買い取った会社が損失を負担する | 利用者が肩代わりして支払う |
| 取引の性質 | 債権の売買 | 貸付けと同様の機能を持つと評価されうる |
| 手数料の意味 | 回収リスクを引き受ける対価を含む | 何に対する対価かの確認が必要になる |
日本の事業者向けファクタリングは、ノンリコースが原則です。買い取った側が回収不能のリスクを負うからこそ、手数料という対価が発生する構造になっています。
民法は債権の売主に資力の担保まで求めていない
ノンリコースが原則とされるのは、商慣習の話だけではありません。民法の考え方がその土台にあります。
民法569条1項は「債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する」と定めています(出典: e-Gov法令検索: 民法)。
これは資力を担保する約束をした場合の推定を定めた条文です。裏を返せば、そうした特約がなければ、債権を売った側は債務者に支払能力があることまで保証しません。
売掛先が払えるかどうかのリスクは、原則として買い手が引き受けます。これが債権売買の基本的な形です。
したがって、償還請求権を付けるには契約でそう定める必要があります。契約書に書かれていない限り、当然に発生する義務ではありません。
手形の遡求義務との違い
似た仕組みとして、手形の遡求義務があります。受け取った手形が不渡りになったとき、手形を裏書譲渡した人が支払いを求められる仕組みです。
| 取引 | 回収できなかったときの負担 |
|---|---|
| ファクタリング | 原則として買い取った会社。リコース契約なら利用者 |
| 手形の裏書譲渡 | 裏書した人(遡求義務がある) |
| でんさいの割引 | 契約により異なる |
手形では遡求義務があるのが通常で、ファクタリングでは償還請求権がないのが通常です。同じ「債権を早く現金に変える」取引でも、リスクの所在は正反対になります。この違いを知らずに「手形割引と同じようなもの」と考えてしまうと、判断を誤りかねません。
でんさいと呼ばれる電子記録債権の割引については、ファクタリングと「でんさい」「電子記録債権」の関係整理で解説しています。
償還請求権があると取引の性質が変わる
償還請求権が付いているだけで、その契約は「債権を売った」形から遠ざかります。名前がファクタリング契約であっても、契約の実態は別に評価されるためです。
未回収時に利用者が支払う義務を負う
ノンリコースであれば、売掛先が倒産しても利用者に返金の義務はありません。回収できないリスクを引き受ける対価として、手数料を受け取っているからです。
ところがリコース契約では、その前提が崩れます。手数料を払ったうえに、売掛先が支払わなければ自社の資金で肩代わりする。手元に入った資金は、経済的には一時的な借入れに近い性質を帯びます。
しかも支払いを求められるのは、売掛先の資金繰りが悪化しているタイミングです。自社も入金がない状態で肩代わりを求められるため、資金繰りへの打撃は二重になります。
経済的に貸付けと同様の機能を持つと判断されうる
この構造は監督官庁も問題視しています。金融庁の注意喚起にもとづき、警戒すべき取り決めを整理しました(出典: 金融庁: ファクタリングに関する注意喚起)。
| 契約に含まれる取り決め | どう評価されうるか |
|---|---|
| 売主が集金できなかったときに債権を買い戻す/売主自身の資金で支払わせる | 回収リスクが売主に残り、貸付けと同様の機能を持ちうる |
| 売掛金の額面に対して手数料が極端に高い | 高額な手数料は資金繰りの悪化や多重債務につながると注意喚起されている |
いずれも貸金業に該当するおそれがあり、業として行うには登録が要るというのが金融庁の指摘です。ここで気をつけたいのは、償還請求権が付いていれば直ちに違法だ、という単純な話ではない点になります。判断されるのは契約の実態であり、個別の事情によって結論は変わります。
では償還請求権があれば常に避けるべきかというと、そう言い切れるものでもありません。期日前に資金を受け取れるという便益は残ります。判断の軸は、その便益と肩代わりのリスクのどちらが自社にとって重いかです。
それでも、契約を結ぶ側として押さえておきたいことは明確です。償還請求権が付いた取引を持ちかけられたら、その条件で進める前に立ち止まる。判断に迷えば、契約を保留して専門家や公的窓口に相談する。
違法業者の手口と見分け方は違法ファクタリング業者の見分け方にまとめてあります。
手数料の水準とあわせて見る
償還請求権の有無は、手数料の水準と切り離せません。回収リスクを引き受けていない会社が高い手数料を取っていれば、その対価は何に対するものかという疑問が残ります。
見積書を受け取ったら、手数料の率だけでなく「この手数料は何を引き受ける対価なのか」を確認してください。回収リスクを負わないのであれば、その分だけ手数料は低くなるはずです。相場の見方はファクタリング手数料の見方と相場をご覧ください。
償還請求権がなくても残る責任がある
ノンリコースだから何があっても責任を負わない、と理解している方がいます。これは正確ではありません。ノンリコースで買い手が引き受けるのは「売掛先が支払えなかった場合」のリスクだけで、それ以外の責任は売り手に残ります。
債権が実在しなかった場合は契約不適合責任の問題
売った債権がそもそも存在しなかったり、すでに消滅していたりした場合はどうなるのか。これは償還請求権とは別の枠組みで扱われます。
| 起きたこと | どの枠組みの問題か | ノンリコースでも責任が残るか |
|---|---|---|
| 売掛先が支払えなかった | 償還請求権の有無 | 残らない(買い手が負担) |
| 売った債権が実在しなかった | 契約不適合責任 | 残る |
| すでに他社へ譲渡していた | 契約不適合責任・二重譲渡の問題 | 残る |
2020年4月に施行された改正民法で、売買の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に置き換えられました。引き渡したものが契約の内容に適合しないとき、民法562条は買主の追完請求権を、563条は代金減額請求権を定めています(出典: e-Gov法令検索: 民法)。
ファクタリングに当てはめると、追完請求は有効な債権への差し替えを求められること、代金減額請求は受け取った代金の一部返還を求められることを意味します。
債権の売買でも同じ考え方が働くと理解しておきましょう。請求書の金額が実際の取引と違っていた、すでに一部入金されていた、といった食い違いがあれば、売り手である利用者が責任を問われる可能性があります。
二重に譲渡した場合は別の責任が生じる
同じ債権を複数の会社に売る二重譲渡は、契約違反にとどまりません。譲受人(債権を譲り受けた側)どうしが権利の優劣を争うことになります。
ここで優劣を決めるのは契約の順番ではありません。確定日付のある通知が売掛先に到達した日時、または債権譲渡登記の日の先後で決まります(民法467条2項・動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項。出典: e-Gov法令検索: 民法/e-Gov法令検索: 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)。
対抗要件とは、その債権を譲り受けたと第三者に主張するための備えを指します。
先に契約していても、相手が先に対抗要件を備えれば回収できません。
結果として損害賠償を求められたり、事案によっては刑事責任を問われたりする可能性もあります。資金繰りが苦しいときほど、複数社への申し込みと二重譲渡の境目が曖昧になりやすいところです。
相見積もりを取ること自体は問題ありません。避けるべきなのは、同じ債権について複数社と契約を結んでしまうことです。リスクの詳細は二重譲渡のリスクで解説しています。
ノンリコースが免責を意味しない理由
契約書を読むときに注意したいのは、契約不適合責任の形を借りて実質的な償還請求権が定められている場合があることです。文言が「債権が存在しない場合」にとどまらず、「売掛先が支払わなかった場合」にまで及んでいないかを確かめてください。
ここまでを整理すると、ノンリコースが意味するのは「売掛先の支払能力については買い手が引き受ける」ということだけです。売った債権そのものが約束どおりのものだったかという点は、売り手の責任として残ります。
「償還請求権はありません」と書かれた契約書に「譲渡した債権が存在しない場合は利用者が責任を負う」という条項があっても、それ自体は矛盾ではありません。別の論点を定めているためです。
契約書のどこを見るか
償還請求権の有無を決めるのは、契約書の文言です。「償還請求権」という言葉が使われているとは限らないため、探すべき語をあらかじめ知っておくと確認が早くなります。
償還請求権を示す5つの表現
次の語が契約書にあれば、その周辺を丁寧に読んでください。
| 探す語 | 確認すること |
|---|---|
| 買戻し | どんな場合に買い戻す義務が生じるか |
| 償還 | 誰が誰に対して償還するのか |
| 保証 | 売掛先の支払いを利用者が保証する内容になっていないか |
| 弁済 | 売掛先に代わって弁済する条項がないか |
| 担保 | 債権譲渡が担保目的だと読める記載がないか |
5つ目の「担保」は見落とされやすい語です。債権を担保として差し入れる形になっていれば、売買ではなく借入の担保設定と評価される余地があります。判断されるのは契約全体の実態であり、表題がファクタリング契約であるかどうかで決まるものではありません。
連帯保証と担保提供の記載
代表者個人の連帯保証を求める条項も、確認しておきたい箇所です。債権の売買であれば、売主の代表者が個人として保証する必要はありません。
不動産や預金を担保に入れる話が出てくる場合も同じです。売買の対価として資金を受け取る取引に、担保を差し入れる理由はないはずです。こうした条件が付いていれば、貸付けと同様の機能を持つと評価されうる要素になります。
法人が契約する場合の確認点は法人ファクタリングの使える条件と手数料でも整理しました。
説明と契約書が食い違うとき
問い合わせの段階では「償還請求権はありません」と説明されたのに、契約書には買戻しの条項があった。このような食い違いは、実際に起こりえます。
実務で重視されるのは契約書の文言のほうです。口頭の説明と食い違ったまま署名すると、後から「契約書にそう書いてある」と言われたときに主張が通りにくくなります。
説明内容が争点になりうるかどうかは個別の事情によります。判断に迷えば弁護士にご相談ください。
食い違いを見つけたら、その場で署名せず、書面で説明を求めてください。応じない相手であれば、契約を見送る判断も選択肢に入ります。
償還請求権チェックリスト
- 上の表にある5つの語を契約書内で検索した
- 見つかった条項が、どんな場合に発動するかを読んだ
- 「やむを得ない事由」「前項にかかわらず」など例外条項の書き出しを読んだ
- 契約不適合責任の条項が、売掛先の不払いにまで及んでいないか確かめた
- 口頭の説明と契約書の文言が一致しているか照合した
読んで意味が取れない条項が1つでもあれば、その場で署名しないという選択ができます。判断に迷うときは、金融庁のファクタリングに関する注意喚起を確認したうえで、金融サービス利用者相談室(0570-016811)などの公的窓口に相談できます。
よくある質問
契約前後によく出る4つの疑問に答えます。法的な評価に関わる論点は、断定を避けて公表情報の範囲にとどめました。
償還請求権ありのファクタリングは違法ですか
償還請求権が付いているだけで直ちに違法と決まるわけではありません。判断されるのは契約全体の実態です。
ただし金融庁は、買戻し条件が付く取引について貸金業に該当するおそれを指摘しています。貸金業の登録なく業として貸付けを行えば貸金業法違反にあたるため、そうした条件を提示されたら契約を急がず、公的窓口に相談してください。
ノンリコースなら売掛先が倒産しても返金は不要ですか
売掛先の支払能力に関するかぎり、返金の義務はありません。それが償還請求権のない契約の意味です。
ただし、売った債権そのものが実在しなかった場合や、すでに他社へ譲渡していた場合の責任は別に残ります。ノンリコースはすべての責任からの免除ではない、と理解しておくと契約書の読み方が変わります。
3社間なら償還請求権は付きませんか
契約形式と償還請求権の有無は、直接には結びつきません。3社間であっても、契約書に買戻しの条項が入っていれば償還請求権のある契約になります。
3社間は売掛先の承諾を得るため回収の確実性が上がり、結果として手数料を抑えやすい形です。しかしそれは償還請求権がないことの保証にはなりません。形式にかかわらず、契約書の文言で確認してください。
契約後に償還請求権に気づいたら
最初に確認するのは、契約書の控えと該当する条項です。控えを受け取っていない場合は、その事実も含めて記録しておきましょう。
そのうえで、金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811)や消費者ホットライン(188)といった公的窓口に相談する方法があります。取立てに脅迫的な要素があるなら、警察相談専用電話(#9110)が窓口です。契約の有効性そのものについての判断は、弁護士に相談してください。
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まとめ
償還請求権は、売掛先が支払わなかったときに利用者が肩代わりするかどうかを決める条件です。日本の事業者向けファクタリングでは、この権利のないノンリコースが原則になります。
民法も、資力を担保する特約がない限り、債権の売主に売掛先の支払能力までは担保させていません。償還請求権が付いている場合は、その取引が貸付けと同様の機能を持つと判断されうる点に注意が必要です。
あわせて押さえておきたいのが、ノンリコースでも売った債権が実在しなかった場合の責任は残るという点です。免責されるのは売掛先の支払能力についてだけだと理解しておくと、契約書の読み方が変わります。
次に確かめたいのは、契約書に本記事で挙げた5つの語が入っていないかどうかです。最適な選択は資金繰りの状況・売掛先・金額によって変わります。条件を比べたい方は掲載209社の契約条件から候補を絞り込むところから始めてみてください。