融通手形とは?振り出した側の責任と危険性・頼まれたときの断り方
融通手形とは、実際の取引がないのに相手に資金を得させるために振り出す手形です。振り出した側が銀行などへの支払いを原則として拒めない理由、書合手形の仕組み、詐欺罪や倒産防止共済との関係を判例をもとに整理し、頼まれたときの断り方、出してしまった後の対処、融通手形に頼らない資金の集め方をまとめました。
「付き合いの長い取引先から、手形を1枚融通してほしいと頼まれた」。断れば関係が壊れそうで、引き受ければ何かあったときに全額を払わされるのではないか、と不安が先に立つ方も少なくないはずです。融通手形が違法なのかどうかも分からず、迷いは重なります。
当サイトは、ファクタリング会社を第三者の立場で比較し、融資を含めた資金の集め方を中立に整理しているメディアです。本記事では融通手形の仕組みと、振り出した側が負う責任、危ないといえる理由を、判例をもとに順にまとめます。
同じ流れで、頼まれたときの断り方や出してしまった後の対処、融通手形に頼らない資金の集め方もわかります。
融通手形とは商取引の裏付けがない手形
融通手形とは、売買などの実際の取引がないのに、相手に資金を得させるためだけに振り出す手形のことです。法律で定義された言葉ではありませんが、手形としては有効なので、振り出した側は支払いの義務を負います。
相手に資金を得させるために振り出す手形
融通手形は、A社がB社あてに約束手形を振り出し、B社がそれを銀行などで割り引いて現金を得る、という形で使われます。期日までにB社がA社へ決済資金を渡し、A社の口座から支払う約束になっているのが一般的です。
最高裁判所は1974年の判決で、融通手形を、振出人が支払う理由となる債務を負っていないのにそれを装い、受取人が後で決済資金を出すことを期待して振り出すものと説明しています。
互いに出し合う書合手形もある
2社が互いに相手あての同じ金額の手形を振り出し、それぞれが受け取った手形を割り引いて資金を得る形もあります。これは書合手形や交換手形と呼ばれ、最高裁の1967年の判決でもこの呼び方が使われました。
同じ判決の事案では、もともと取引のなかった2社が、代表者どうしが親しかったことから、満期を数日ずらした同じ金額の手形を出し合っていました。「お互いさま」のやり取りに見えても、片方が払えなくなると、もう片方に負担が回る仕組みです。
商業手形や手形割引との違い
商業手形は、商品の売買など実際の取引の代金として振り出される手形で、期日には売った代金が支払いに回る見込みがあります。融通手形は取引の裏付けがないため、期日の支払いは相手が資金を戻してくれるかどうかにかかっています。
手形割引そのものは、受け取った商業手形を期日前に現金にする通常の取引です。危ないのは割り引く手形に取引の裏付けがないことで、手形割引を使うこと自体ではありません。
融通手形を振り出した側が負う責任
融通手形を振り出した会社は、手形を割り引いた銀行などから期日に請求されると、原則として支払いを拒めません。手形が銀行などに渡っていれば、相手が決済資金を戻せないときは全額を自社で払うことになり、2027年3月までは、払えなければ不渡りとなって銀行との取引が止まるおそれがあります。
手形を持つ銀行などへの支払いは拒めない
融通手形でも、手形を割り引いた銀行など第三者から請求されれば、振出人は原則として支払わなければなりません。最高裁の1959年の判決は、振出人が支払いを拒めるのは融通を受けた相手から直接請求された場合で、それ以外の所持人には、特別な事情がない限り、融通手形と知っていたかどうかを問わず拒めないとしました。
手形法17条は、手形の請求を受けた人は、前の持ち主との個人的な事情を理由に今の持ち主への支払いを拒めないと定めており、約束手形にも当てはまります。ただし、今の持ち主が振出人を害すると知って手形を取得したときは別です。「この手形は頼まれて出しただけ」という事情は、原則として銀行には通じないと考えてください。
相手が資金を戻せなければ全額を負担する
手形が割り引かれて銀行などの手に渡っていれば、相手が決済資金を戻せないとき、振出人は手形の全額を期日に払わなければなりません。払った分を相手にどこまで請求できるかは合意の中身しだいで、相手が倒れていれば取り戻すのは難しくなります。
書合手形の場合は、受け取った相手の手形を割り引いていれば、自社はその手形の裏書人という立場にもなるので注意が必要です。相手が倒れると、自社が振り出した手形の支払いに加えて、割り引いた相手の手形の買戻しも求められます。買戻し分は割引で受け取ったお金の返済にあたりますが、期日には両方の支払資金を同時に用意しなければならず、資金繰りへの打撃は大きくなります。
2027年3月までは不渡りが続くと取引が止まる
期日に払えなければ不渡りとなり、2027年3月までの電子交換所の仕組みでは、6か月以内に2回不渡りを出すと取引停止処分を受ける仕組みです。全国銀行協会によると、取引停止処分を受けると、銀行は2年間、その会社と当座預金と貸出の取引を行いません。
この取引停止処分の規定は、電子交換所規則の改正で2027年4月1日に削除される予定です。ただし手形法上の支払義務は残るため、振出人が払わなければならない立場は変わりません。
融通手形が危ないといえる理由
融通手形を理由に支払いを免れられる場面は狭く、融通を受けた側が取引があると偽って割り引けば詐欺に問われるおそれもあります。さらに、取引先の倒産に備える公的な共済の対象にもならないため、相手が倒れたときの打撃を和らげる手段が限られます。
融通手形を理由に払わずに済む場面は狭い
「融通手形だから払わない」という主張を「融通手形の抗弁」といい、これを主張できるのは原則として融通を受けた相手に対してだけです。最高裁の1964年の判決も、第三者に対しては、融通手形と知って手形を取得した場合でも、この主張はできないとしています。
例外として、前に挙げた1967年の判決は、書合手形で「相手が払わなければ自分も払わない」という約束があり、手形を取得した人がその約束と相手の手形の不渡りを知っていた場合などには、支払いを拒める(悪意の抗弁を主張できる)としました。ただし条件がいくつも重なる必要があり、頼れる場面は狭いと考えてください。
商取引があると偽って割り引けば詐欺のおそれ
詐欺罪に問われうるのは、取引の裏付けがあると偽って割り引かせるなど、人を欺く行為があった場合です。最高裁の1962年の決定は、融通手形を支払いの確実な商業手形のように偽って割り引かせ、お金をだまし取ったとして詐欺罪の成立を認めた判断を是認しました。
実態のない請求書を作ってファクタリング会社に売るのも、人を欺くという点で同じ構造です。刑法246条の詐欺罪に当たりうるので、決して行わないでください。
倒産防止共済の対象にならない
取引先の倒産に備える経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、融通手形にもとづく債権を被害額に含めません。中小機構は、融通手形にもとづく債権は回収が難しくなっても被害額に含まれないと明記しています。
書合手形で受け取った相手の手形は、相手が倒れても共済の貸付の対象にならないということです。連鎖倒産を防ぐための備えが使えない点も、融通手形の大きな危険といえます。
頼まれたときの断り方と出してしまった後の対処
手形の融通を頼まれたら、会社の方針として取引以外では手形を出さないと伝えて断るのが基本です。すでに出してしまった場合は、期日と相手の資金の状況をすぐに確かめ、早めに弁護士や公的な窓口に相談してください。
会社の方針として手形の融通を断る
付き合いの長い取引先から頼まれると断りにくいものですが、個人の判断ではなく会社の決まりとして伝えると角が立ちにくくなります。たとえば「当社は、実際の取引の代金以外では手形を出さない方針です」「手形を出すと、相手が払えないときに全額を当社が払う義務を負うため、お受けできません」といった言い方です。
手形の融通を頼んでくること自体が、相手の資金繰りが苦しいサインでもあります。最高裁の1976年の判決では、資金難の取引先に頼まれて融通手形を出していた会社の代表取締役が、相手の調査や支払手段の用意をしないまま仕入れを続け、相手の倒産で支払不能になった事案で、仕入先に対する個人の賠償責任が認められました。
出してしまったら期日と相手の資金を確かめる
すでに融通手形を出している場合は、手形の期日・金額と、相手が決済資金を戻せる見込みを今すぐ確かめてください。相手が払えないおそれがあるなら、期日までに自社で払う資金を用意できるかを資金繰り表で確認します。
相手が手形を割り引かずに手元に残している、あるいは一度割り引いた手形を受け戻している場合は、手形を返してもらうよう求めましょう。最高裁の1965年の判決は、受け戻した融通手形を再び資金集めに使うことは原則として許されないとしています。
早めに弁護士や公的な窓口に相談する
払う義務があるかどうかや、払った後に相手へいくら請求できるかは、合意の中身や手形の流れで変わるため、専門家の判断が欠かせません。日本弁護士連合会の中小企業向けのひまわりほっとダイヤル(0570-001-240)では、弁護士との面談を予約できます。
資金繰りの立て直しは、無料で何度でも相談できるよろず支援拠点や、地域の商工会議所にも相談できます。期日が迫ってからでは打てる手が限られるので、気づいた時点で動いてください。
融通手形に頼らない資金の集め方
紙の手形は、多くの金融機関で2026年10月1日以降に振り出したものが決済されなくなっており、融通手形という手段そのものが使いにくくなっています。資金が足りないときは、取引先の倒産に備える公的な融資や保証、売掛金があればファクタリングなど、正規の手段を比べてください。
紙の手形は多くの銀行で新たに使えない
全国銀行協会によると、期限を公表している金融機関の多くが2026年9月30日を最終振出期限とし、10月1日以降に振り出された手形は原則として当座預金から支払われません。電子交換所での手形の交換も、2027年3月31日で廃止されます。
これから紙で融通手形を出しても、多くの銀行で決済や割引ができないということです。一方で、すでに出回っている手形の支払義務は手形法上残るため、手元や相手先にある手形の扱いは手形廃止の日程と切り替え方もあわせて確かめてください。
取引先の倒産に備える公的な融資と保証
取引先の倒産で資金繰りが苦しくなったときは、公的な融資や保証を使える場合があります。主な制度を表にまとめました。
| 制度 | 対象になる主な場合 | 窓口 |
|---|---|---|
| 取引企業倒産対応資金 | 関連企業の倒産で経営が苦しい | 日本政策金融公庫 |
| セーフティネット保証1号 | 指定された大型倒産先への売掛金 | 市区町村・保証協会 |
| 経営セーフティ共済 | 加入6か月以上で取引先が倒産 | 中小機構 |
公庫の取引企業倒産対応資金は、倒産企業への売掛金などが50万円以上ある場合などが対象で、原則として申込み前1年以内の倒産に限られます。経営セーフティ共済は、加入から6か月以上たち、掛金を6か月分以上納めていることなどが条件で、融通手形にもとづく債権は対象になりません。融資や保証で融通手形にもとづく債権が対象になるかは、申し込む窓口で確かめてください。
取引先の倒産がなくても、取引銀行に資金繰りを相談する道があります。中小企業庁と公正取引委員会は2026年9月、事業者の資金繰りの相談に丁寧に応じるよう金融機関に要請しており、返済条件の変更も含めて早めに相談してください。
売掛金があるならファクタリングも比べる
実際の取引で生じた売掛金があるなら、ファクタリングで期日前に現金にする方法も選択肢の一つです。金融庁は、ファクタリングを法的には債権の売買契約と説明しています。
ただし金融庁は、高い手数料を払うとかえって資金繰りが悪化するおそれがあると注意しています。受け取れる額が売掛金に比べて著しく少ない契約や、買い戻しや自社のお金での支払いを求める契約は避け、違法業者の見分け方も確かめてください。
融通手形でよくある質問
融通手形について、迷いやすい疑問をまとめました。
融通手形は違法ですか
融通手形も手形としては有効で、振り出しただけで違法になるとは言い切れません。ただし、取引の裏付けがあると偽って割り引かせれば詐欺罪に問われるおそれがあり、振出人は第三者への支払義務を負います。違法かどうかより、自社が負う負担の大きさで判断してください。
銀行は融通手形をどう見ていますか
銀行は融通手形を警戒します。かつて金融庁が銀行検査に使っていた金融検査マニュアルでも、融通手形は「決済確実な商業手形」から外されていました。最高裁も、融通手形を理由に支払いを拒めばそれだけで取引先から警戒され、多額の融通手形を出していて相手に資力がないと分かれば、警戒はいっそう強まると述べています。
融通手形の悩みはどこに相談できますか
融通手形や資金繰りの悩みを相談できる主な窓口は、次のとおりです。
| 窓口 | 相談できること | 連絡先 |
|---|---|---|
| ひまわりほっとダイヤル | 弁護士への法律相談の予約 | 0570-001-240 |
| よろず支援拠点 | 経営や資金繰り全般 | 各都道府県の拠点 |
| 取引かけこみ寺 | 取引条件の悩み | 0120-418-618 |
| 金融庁 金融サービス利用者相談室 | ファクタリングの不安 | 0570-016811 |
| 日本貸金業協会 | 手形割引業者・貸金業者とのトラブル | 0570-051051 |
| 警察相談専用電話 | 悪質な業者の被害 | #9110 |
ひまわりほっとダイヤルの初回相談の料金は地域で違うため、予約のときに確かめてください。日本貸金業協会と#9110の番号は、金融庁のファクタリングの注意喚起ページに載っています。
まとめ
融通手形は、取引の裏付けがないのに相手に資金を得させるために振り出す手形です。振出人は手形を持つ銀行などへの支払いを原則として拒めず、手形が銀行などに渡っていれば、相手が資金を戻せないときに全額を負担することになります。
頼まれたときは会社の方針として断り、すでに出しているなら期日と相手の資金を確かめて、早めに弁護士やよろず支援拠点に相談してください。資金が足りないときは、公的な融資や保証など正規の手段を比べましょう。紙の手形のやり取りそのものも見直す時期です。