IT 企業向けファクタリング|SaaS の MRR・受託開発・SES の資金繰り戦略
掲載209社の手数料帯データ、契約書チェック3点、公的な相談窓口までを収録。SaaS・受託開発・SES それぞれの入金構造から、ファクタリングを使うべき場面と、使わない方がよい場面を切り分けます。
検収が終わらないと、請求書すら出せない。IT受託やSESの現場では珍しくない話です。要件定義から納品・検収・請求・入金まで数か月かかる一方で、エンジニアの人件費は毎月出ていきます。
当サイトはファクタリング会社209社を第三者の立場で比較し、利用者の口コミ調査(2026年3月実施・N=401)をもとに運営しているメディアです。
この記事で取り上げるのは、SaaS・受託開発・SES(システムエンジニアリングサービス)の3モデルです。それぞれの入金構造に応じて、いつ・どの資金調達手段を選ぶべきかを整理しました。読み終える頃には、自社に合った打ち手を判断できるようになるはずです。
IT 企業の資金繰り構造は事業モデルごとに違う
IT 企業の資金繰りを見るときの軸は、売上の規模ではなく「何が先に出ていくか」と「入金までの長さ」です。この2つは事業モデルごとに大きく違います。
| 事業モデル | 先に出ていく費用 | 着手・締めから入金までの目安 |
|---|---|---|
| SaaS | 開発費・マーケティング費・カスタマーサクセス人件費 | 月次入金だが、獲得コストが数か月先行 |
| 受託開発 | エンジニア人件費・外注費 | 着手から 5〜6 か月(検収待ちを含む) |
| SES(エンジニアの稼働を提供する契約形態) | エンジニア給与・外注費(月末に確定) | 月末締めから 60〜90 日 |
共通するのはエンジニア人件費が固定費の大半を占めること、そしてその人件費が入金よりも先に出ていく構造です。まず自社がどの型に近いかを押さえておきましょう。
継続的に資金化する運用を想定しているなら、来店なしで使える会社を比較するところから始めると、手間を抑えられます。
SaaS:MRR と将来収益のギャップ
SaaS(Software as a Service)は月額・年額の継続課金が中心で、MRR(月次経常収益)の積み上げが事業価値を作ります。毎月キャッシュが入ってくるのは月次課金の強みです。
ただし開発・マーケティング・カスタマーサクセスの先行投資が大きく、立ち上げ期は累計でキャッシュアウトが続きます。年額前払いプランで一括入金が得られる場合もありますが、新規顧客獲得コストが先に膨らむ構造は変わりません。
受託開発:プロジェクトの長さと検収
受託開発は「要件定義 → 設計 → 開発 → テスト → 納品 → 検収 → 請求 → 入金」というフローを辿ります。3 か月のプロジェクトでも、検収・請求・支払サイト(締め日から入金日までの期間)を加えて着手から入金まで 5〜6 か月が普通です。
仕様変更による検収遅延、追加要件への対応、複数案件の並行進行で、資金ギャップは累積します。検収サイクルの長さは個別プロジェクトの事情だけでなく、IT 業界に多い多重下請構造にも起因すると考えられます。
SES:月次精算と多重下請
SES は月末締めの作業報告書ベースで請求し、60〜90 日の支払サイトを経て入金される業態です。一方でエンジニアへの給与・外注費は、月末に発生することが決まっています。支払サイトの長さがそのまま資金繰りに直撃するのはこのためです。
多重下請の構造では、二次請け・三次請けの SES 会社ほど支払サイトが長くなる傾向があるとされます。一般的なファクタリングの仕組みはファクタリングとはのページで整理しています。本記事で扱うのは、IT 企業の事業モデルごとの使い分けと、審査で見られる論点です。
IT 企業の典型的な資金需要シーン
IT 企業のファクタリング利用は、事業モデルとフェーズの組み合わせで発生します。下表は典型シーンの整理です。
| シーン | 主な資金用途 | 適した契約形態 |
|---|---|---|
| SES 月次精算の繋ぎ | エンジニア人件費・外注費 | 少額・継続利用型 |
| 受託案件の検収待ち | 外注費・サーバー代・ライセンス | 請求書ファクタリング |
| 新規プロジェクト着手 | 初期人員投入・要件定義費 | 注文書ファクタリング |
| SaaS の新規顧客獲得 | マーケティング費・人件費 | 請求書(個別契約ベース) |
| エンジニア採用・引き抜き | 採用費・契約一時金 | 少額・即日対応 |
SES の月次精算サイクルの繋ぎ
SES 事業者は、月末に締めた請求書が支払サイト経過後(60〜90 日後)に入金されます。エンジニアへの給与支払は月末に確定しているため、入金とのギャップが構造的に発生します。
毎月の請求書を継続的に売却して支払サイトを数日に短縮する使い方が典型です。継続利用で手数料が下がる料率体系のサービスや、月次の買取上限枠を事前設定できる契約が運用に合います。
一方で、毎月継続して手数料を支払う分、金融機関からの融資に比べてコストが積み上がりやすい点はデメリットです。
受託案件の検収待ち資金
受託開発では、納品 → 検収 → 請求書発行 → 支払サイト経過、と段階が多く、納品後すぐの資金化は難しいケースがあります。資金化のタイミングになるのは、検収が完了して請求書を発行した直後です。
仕様変更で検収が長引きそうなときは、当面の運転資金として一部の請求書だけを売却し、残りは入金を待つという回し方もできます。
検収から入金までの期間は短縮できる一方、都度手数料が発生します。複数案件を並行して資金化すると、年間コストが無視できない水準になる点に注意してください。
新規プロジェクト着手時の前金
長期の受託開発案件では、要件定義・設計フェーズでエンジニアを集中投入しなければなりません。クライアントからの初回入金は数か月先になるため、注文書ファクタリングや基本契約 + 個別注文書ベースの資金化を検討するケースもあります。
ただし仕様変更が起きやすい IT 案件は審査が慎重になり、手数料も上振れやすい点には注意が必要です。仕組みそのものは注文書ファクタリングとはのページで整理しています。
SaaS の成長投資
SaaS 事業では、月次の小口入金が積み上がる一方で、新規顧客獲得のためのマーケティング費とエンジニア人件費が大きく先行します。
年額前払い契約の請求書を売却してマーケティング費に充てる、大手企業との年次契約をベースに先払いを受ける、といった使い方が代表的です。ベンチャーキャピタルからのエクイティ資金と並行して、つなぎ資金にファクタリングを充てる場面も見られます。
資金調達のスピードは魅力ですが、継続的に利用すると手数料負担が MRR の伸びを相殺しかねません。エクイティや融資との使い分けが欠かせない理由がここにあります。
ファクタリングを使う前に検討すべきこと
ファクタリングは資金繰りの選択肢の一つですが、いつでも最適な手段とは限りません。専門家の間で共通しているのは、「支払期日までの時間的な余裕」によって選ぶべき手段が変わるという考え方です。
専門家が語る「時間的猶予」×「許容できるコスト」の2軸
選ぶ手段を決めるのは、支払期日までにどれだけ時間が残っているかになります。篠田佳希氏は、信用金庫で融資業務を10年経験し、現在は株式会社SoLabo に所属する専門家です。同氏が監修した辻・本郷navi の解説(2025年12月26日公開)では、次のような使い分けが示されています。
「まずはコストの低い融資(ABL等)を検討し、どうしても間に合わない緊急時のみファクタリングを利用する」。ABL(売掛債権担保融資)とは、売掛金を担保に金融機関から借りる方法です。
より具体的な線引きも示されています。「支払期日まで1ヶ月以上の余裕があり、利益をできるだけ削りたくない場合は、ABLを選ぶのが賢明」というものです。
時間の面での差は小さくありません。同解説によれば、銀行系の ABL は実行までに最短でも数週間、標準的には1か月〜2か月程度かかります。審査プロセスが簡素なノンバンク系でも、数営業日〜2週間程度で実行に至るケースがある程度で、即日融資は難しいとされています。
これに対してファクタリングの審査で重視されるのは、売掛先の信用力と請求書の実在性です。そのため最短即日〜数日で完了します。コスト面でも、同解説は ABL の金利を年率2〜6%程度、2社間ファクタリング(売掛先に通知せず、利用者とファクタリング会社の2者で完結する契約形態)の手数料を10〜20%としています。
IT 受託・SES の現場では、検収の遅れも含めると入金まで60〜120日かかる案件が珍しくありません。支払期日まで1ヶ月以上あるかどうかが、ABL とファクタリングの分かれ目になります。
検収予定日が確定していれば逆算できます。ただし仕様変更で検収がずれやすい案件では、余裕を短めに見積もっておくのが安全です。
単発利用が原則、継続利用のリスク
専門家に共通するもう一つの原則が「単発で使う」ことです。同じ資金繰りの穴を毎月ファクタリングで埋め続けると、手数料の負担が積み重なります。資金繰りがかえって悪化する危険があるためです(金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」、日本弁護士連合会 2020年6月17日会長声明)。
次のようなケースでは、ファクタリング以外の手段を先に検討してください。
- 恒常的な赤字の穴埋めとして使っている
- 別のファクタリングの支払い原資に充てている
- 税金や社会保険料の滞納が既にある
手数料の水準にも目安があります。日本弁護士連合会は2020年6月17日の会長声明で、業として行う取引の手数料について2つの線を示しています。
年利換算で年20%を超えるときは出資法5条2項違反、年109.5%を超えるときは貸金業法42条1項により契約全部が無効になりうる、という指摘です。契約書の手数料条件を確認するときの、一つの物差しとして使えます。
IT 企業のファクタリング審査の特徴
審査で見られるのは、自社の業績よりもクライアントの信用力と、契約・作業実態を示す書類です。IT 特有の契約形態をどう伝えるかが通過率と条件を左右します。
クライアントの信用力が中心
IT 企業のファクタリング審査は、ほかの業種と同様にクライアント(売掛先)の信用力が中心です。クライアントが大手 SIer、上場企業、官公庁系であれば審査通過率が高く、手数料も抑えやすい傾向があります。
SaaS でクライアントが多数いる場合は、特定の大口クライアントの売掛金を選んで売却する形が一般的です。スタートアップやベンチャー向けの SaaS では、クライアント自体の信用力が低いと判断され、手数料が上振れる場合があります。
確認される書類
IT 企業の審査では、契約形態と作業実態を客観的に示す書類が重視されます。一般的に確認される書類は以下のとおりです。
- 請求書(売掛金の額面・支払期日が明記されたもの)
- 業務委託契約書・準委任契約書・SaaS 利用契約書
- 注文書または個別契約書(プロジェクトごと)
- 作業報告書・タイムシート(SES の場合)
- 検収書または納品書(受託の場合)
- 取引履歴(通帳のコピー、過去 3〜6 か月)
- 決算書(法人)または確定申告書(個人事業)
SES では作業報告書の提出ルール、受託では検収条件の明記、SaaS では利用契約書の条項が、審査スピードと条件を左右します。契約段階で書類整備を意識しておくと、ファクタリング以外の場面でも交渉が有利になります。
事業モデル別の審査傾向
審査で追加確認が入りやすいのは、受託の検収条件と SES の作業報告書です。
| 事業モデル | 審査の特徴 | 主な提出書類 |
|---|---|---|
| SaaS | 個別契約ベースで売掛金を特定/成長性も評価 | SaaS 利用契約書・請求書 |
| 受託開発 | 検収条件・仕様変更条項を確認 | 請負契約書・注文書・検収書 |
| SES | 作業報告書・継続契約の安定性 | 準委任契約書・作業報告書 |
| 自社サービス | 広告売上・課金売上の継続性 | プラットフォーマー入金履歴 |
手数料の考え方
手数料は1社の数字だけを見ても、高い・安いを判断できません。判断材料になるのは、複数社の条件を並べた分布です。業界団体・公的機関による統一的な手数料統計は存在しないため、当サイトでは掲載209社の公表条件を独自に集計し、帯ごとの分布を公開しています。
先に触れた専門家の10〜20%という数値と、以下の集計は前提が違います。前者は実際の成約水準、後者は各社が公表している条件の帯です。
- 低手数料帯(平均0〜2%)64社 / 30.6%
- 標準手数料帯(平均2〜5%)84社 / 40.2%
- 高手数料帯(平均5〜20%)51社 / 24.4%
- 未設定10社 / 4.8%
上限5%を大きく超える条件を提示されたときは、同じ売掛金で他社の見積もりも取ってから判断する余地があります。同じ債権でも、会社によって提示される条件は変わるためです。
消費税は非課税 — 上乗せ請求は要注意
売掛金(金銭債権)の譲渡は消費税の非課税取引にあたります(国税庁タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」)。
ファクタリングの手数料に消費税を上乗せして請求する業者は、その時点で契約条件を疑ってよいサインです。専門知識がなくても確認できる、数少ない判定基準の一つです。
個社ごとの詳細な手数料条件は、IT を含むサービス業の実績がある会社を比較するページから確認できます。
IT 企業に合うファクタリング会社の選び方
選定の軸は3つです。IT 業界の契約形態を理解しているか、継続利用に耐える設計か、そして必要なスピードが出るか。下表は、それぞれで見るべき点と、申込前に確認できる危険なサインをまとめたものです。
| 軸 | 確認する項目 | NGサイン |
|---|---|---|
| 業界理解 | IT・SaaS・SES の取引事例が公式サイトにあるか | 業種別の実績や事例が一切掲載されていない |
| 継続利用 | 2 回目以降の料率低減・月次の買取上限枠の設定可否 | 2回目以降の条件が公開されていない |
| スピード | 即日・翌営業日の実績、オンライン完結の可否 | 入金日を明示せず「最短」だけを強調する |
業界理解と契約形態への対応
まず見るのは、「IT 業界の取引事例」「SaaS の事例」「SES の月次利用事例」が公式サイトに掲載されているかどうかです。次に、業務委託契約と準委任契約の違いを理解した審査をしてくれるかを確認します。
業界に不慣れな会社だと、業務委託契約書や作業報告書の確認に時間がかかり、結果的に資金化スピードが落ちます。IT 業界の利用実績を公開している会社から当たるのが早道です。
少額・継続利用に強い設計
SES 事業者や SaaS 企業の継続利用に向くサービスには、共通する設計があります。初回手数料は高めでも 2 回目以降が下がる料率体系、月次の買取上限枠を事前設定できる契約、書類提出を簡略化する仕組みの3つです。
来店・面談が不要で繰り返し利用できるオンライン完結型の設計は、IT 事業者と相性が良いといえます。
スピードと手数料のバランス
月次精算の繋ぎが目的なら、優先すべきは即日・翌営業日という入金スピードです。一方、納税期や大型案件の前金など、数日待てる用途であれば、手数料の低さを優先する選び方も成り立ちます。
長期的な資金繰り改善の方向性
ファクタリングは時間を買う手段であって、資金繰りそのものを直す手段ではありません。支払条件・融資・契約設計の3方向から、依存度を下げていく打ち手を整理します。
取適法と支払条件の交渉
2026年1月1日施行の中小受託取引適正化法(取適法。旧下請法)では、対象取引の手形払いが一律で禁止されました。電子記録債権やファクタリング等その他の支払手段についても、支払期日までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものは禁止の対象です。
これとは別に、公正取引委員会は2024年11月1日以降の運用方針を示しています。下請代金の支払手段として支払サイトが60日を超える長期の手形等を交付した親事業者を、指導の対象とするという内容です。
IT 業界では多重下請構造で支払サイトが伸びやすいため、これらの制度を根拠に支払条件の短縮を交渉する余地が広がっています。
ただしこれは発注者が支払手段として押し付けるケースの規制であり、受注側が自らの資金調達手段として使うファクタリングとは別の話です。経済産業省の情報サービス産業の取引適正化もあわせて確認してください。
銀行融資・公庫融資の併用
IT 企業は、日本政策金融公庫の運転資金融資、地域金融機関の事業性融資、IT 業界向けの保証協会付き融資など、複数の融資オプションがあります。
これらの融資はいずれも金利が年率で示されるのに対し、ファクタリングの手数料は1回の取引ごとに発生するものです。数か月分の取引を年率に換算すると、負担は融資の水準を大きく上回ります。平時は融資、緊急時はファクタリングという使い分けが、コスト面では合理的です。
SaaS 企業であれば、ベンチャーキャピタル・コーポレートベンチャーキャピタルからのエクイティ資金も選択肢に入ります。
税金の支払いが難しい場合は、国税の換価の猶予という制度もあります。納期限から6か月以内に申請すると、最長2年の範囲で延滞税が軽減される仕組みです。
SaaS の年額契約とサブスクリプション最適化
SaaS 事業者は、年額前払いプランの比率を高めることで月次キャッシュフローを改善できます。年額契約には解約抑制効果もあり、長期的な LTV(顧客生涯価値。1顧客が生涯にもたらす利益)の向上にも効いてきます。
一方、年額契約は獲得時のハードルが高いため、月額契約とのバランス設計が欠かせません。月額契約を維持しつつ、年額契約への移行を促す価格設計(年額割引)は、SaaS では標準的な改善策です。
エンジニア採用・定着のための資金設計
IT 企業の競争力はエンジニアの質と数で決まるため、採用・定着のための人件費を滞りなく支払える資金設計が経営の根幹になります。給与の遅配・遅延が離職に直結するためです。
ファクタリングは「エンジニアへの支払を遅らせないための緊急策」と位置付ける考え方があります。長期的には、給与原資を 2〜3 か月分先回りで確保する運転資金設計を目安に置く企業もあります。
資金調達・改善策を時間軸で比較する
時間の余裕がどれだけあるかで、選べる手段は入れ替わるものです。
| 手段 | 実行までの時間 | コスト感 | 向くタイミング |
|---|---|---|---|
| 支払条件交渉 | 数週間〜数ヶ月 | 低い(交渉の手間のみ) | 取適法などの制度を根拠にできる場面 |
| リスケジュール(銀行への返済条件の変更) | 数週間〜 | 低い(返済負担は継続) | 経営改善計画とセットで組める場合 |
| 銀行融資・公庫融資 | 数週間〜1ヶ月程度 | 年率で示される金利(ファクタリングより低い) | 時間的な余裕があるとき |
| ファクタリング | 最短即日〜数日 | 融資より高めの手数料 | 数日以内に資金化が必要な緊急時 |
いずれか一つに頼るのではなく、支払条件交渉や公的な猶予制度で時間を作りながら、緊急時だけファクタリングを使うという組み合わせが現実的です。
違法業者を避けるためのチェックポイント
危険な業者を見分ける手がかりは2つあります。個人向けの「給与ファクタリング」を持ちかけてこないか、そして契約書の条件を開示するかどうかです。
「給与ファクタリング」は別物
IT エンジニア個人をターゲットに「給与買取」「給与ファクタリング」を持ちかける業者は、実質的に貸金業に該当する取引を提供している可能性が高くなります。最高裁判所第三小法廷 令和5年2月20日決定(令和4年(あ)第288号)で示された考え方です。
貸金業登録のない業者が行うと違法とされ得るため、関わらないのが安全です。経営者は社内エンジニアへの周知も含めて注意してください。
この決定が対象としているのはあくまで給与ファクタリングであり、事業者向けの請求書ファクタリングとは別物です。両者を混同しないよう切り分けて理解してください。
契約書の透明性と債権譲渡登記
金融庁のファクタリングの利用に関する注意喚起では、契約書を交付しない、償還請求権付きの契約を勧める、所在地・代表者情報が不透明、といった業者の特徴が挙げられています。
ここで出てくる償還請求権とは、取引先が倒産して売掛金を回収できなかったときに、利用者が肩代わりする義務のことです。債権譲渡登記は、この売掛金は譲渡済みだと法務局に記録する手続きで、登録免許税などの費用がかかります。
IT 事業者は契約書の見方に慣れているケースが多いはずです。次の4点は契約書で必ず確認する習慣をつけてください。
- 譲渡対象となる債権の特定方法
- 売掛先が支払えなかったときの取り扱い
- 手数料以外に発生する費用の有無
- 債権譲渡登記を行うかどうかと、その費用
条件別に探す
IT 企業の場合、絞り込みの軸は契約形態と入金スピードの2つです。
- 数日以内に資金化したい(SES の月次精算など)… 入金スピードと即日対応の可否で絞り込む
- エンジニア個人・小規模事業者として使いたい → IT エンジニア・SES 事業者向けファクタリング
よくある質問
IT 企業から寄せられることの多い4つの疑問について、先に要点だけまとめました。
| 質問 | 要点 |
|---|---|
| SaaS の月額課金売掛金は対象か | 対象になるサービスがある。少額なら複数月分を束ねる |
| 検収前でも資金化できるか | 注文書ファクタリングなら可能。手数料は高め |
| SES 精算を全部回してよいか | 運用上は可能だがコストが累積する。融資の併用を検討 |
| スタートアップでも使えるか | 使える。審査の中心はクライアントの信用力 |
SaaS の月額課金売掛金もファクタリング対象になりますか
対象になるサービスがあります。月額課金の請求書 1 枚あたりの金額が小さい場合、複数月分や複数顧客分を束ねて売却する形が一般的です。
大手企業との年額契約であれば 1 枚あたりの金額が大きく、単独で売却しやすくなります。SaaS 専門ではないファクタリング会社では契約形態の理解にバラツキがあるため、IT 業界の事例を持つ会社を選ぶのが無難です。
受託案件で検収前の段階でも資金化できますか
検収前の段階で資金化する手段は、注文書ファクタリングまたは個別契約書ベースのファクタリングです。請求書ファクタリングと比べて手数料は高めで、IT 案件は仕様変更が起きやすいため審査も慎重になります。
検収条件が明確で、過去の取引実績が積み上がっているクライアントであれば、利用できる余地は広がります。
毎月の SES 精算をすべてファクタリングで回しても問題ありませんか
運用上は問題ないケースが多いのが実情です。継続利用で手数料が下がるサービスもあります。ただし長期で繰り返し利用すると手数料コストが累積し、年間で見れば相当な金額です。
月次精算をすべてファクタリングで回している状態は、構造的に運転資金が不足しているサインでもあります。銀行融資の併用や支払条件交渉を並行して検討したいところです。
スタートアップでも IT 企業向けファクタリングは使えますか
使える場合があります。審査の中心はクライアントの信用力なので、利用者側がスタートアップでも、大手クライアントの売掛金であれば利用できる可能性があります。
エクイティ資金との併用や銀行融資との使い分けを含めれば、短期の資金繋ぎとしては有効な手段です。ただし手数料コストは累積するため、長期的にはエクイティと融資を中心に据える設計もよく採られています。
困ったときの相談窓口
契約の前後で不安を感じたとき、業者とのトラブルに巻き込まれたときに使える公的な相談先をまとめました。いずれも無料で相談できます。
| 窓口 | 連絡先 |
|---|---|
| 金融庁 金融サービス利用者相談室 | 0570-016811(平日10:00〜17:00) |
| 消費者ホットライン | 188(局番なし) |
| よろず支援拠点 | 各都道府県の拠点へ(経営全般の無料相談) |
どこに相談すればよいか判断がつかない場合は、まずよろず支援拠点や商工会・商工会議所に問い合わせてください。必要に応じて専門の窓口につないでもらえます。
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まとめ
IT 企業の資金繰りは、SaaS・受託開発・SES という事業モデルごとに構造が違い、共通点はエンジニア人件費の先払いです。緊急時の打ち手と、中長期で構造を直す打ち手は分けて考えると整理しやすくなります。
| 時間軸 | 主な打ち手 |
|---|---|
| 緊急(数日以内) | 請求書・注文書ファクタリング/シーンに合う契約形態とサービスの選定 |
| 中長期 | 取適法を踏まえた支払条件交渉/銀行融資・公庫融資の併用/SaaS の年額契約最適化 |
最適な選択は、資金繰りの状況や検収サイクル、許容できるコストによって変わります。まずは入金の早い会社を比較するところから、自社の条件に合う候補を絞り込んでみてください。
判断に迷ったときは、本記事の相談窓口や公的な支援機関も選択肢に加えてください。