破産直前のファクタリングは違法か|否認される3つの要件
破産直前にファクタリングを使うこと自体は違法ではありません。ただし破産手続に入ると、管財人が取引を否認できる場合があります。相当な対価での譲渡が否認されるには破産法161条の3要件すべてが必要で、資金の使い道が分かれ目になります。条文から整理します。
破産が視野に入った段階でファクタリングを使うことは、それ自体が違法な行為ではありません。ただし、その後に破産手続が始まると、破産管財人が過去の取引を否認できる場合があります。
ここで知っておきたいのは、否認には条文上の要件があり、すべてを満たす必要があることです。「破産直前だから必ず否認される」わけではありません。この記事では、どの条文がどんな要件を定めているかを整理します。経営危機の段階ごとの考え方は 経営危機×ファクタリング判断フレーム にまとめています。判断は弁護士への相談を前提とした論点整理です。
否認権とは何か
否認権は、破産管財人が破産手続開始前の行為の効力を否定し、財産を破産財団に戻すための権利です。債権者への配当に回せる財産を確保するための制度です。
| 条文 | 対象 |
|---|---|
| 破産法160条 | 破産債権者を害する行為(詐害行為) |
| 破産法161条 | 相当の対価を得てした財産の処分行為 |
| 破産法162条 | 特定の債権者に対する担保の供与・債務の消滅(偏頗行為) |
ファクタリングは売掛金を対価を得て譲渡する取引なので、主に161条が問題になります。
破産法161条の3要件
161条第1項は、相当の対価を得た処分行為について、次のすべてに該当する場合に限り否認できると定めています。
| 号 | 要件 |
|---|---|
| 第1号 | 財産の種類の変更(売掛金から現金へ)により、破産者が隠匿・無償の供与その他の債権者を害する処分(隠匿等の処分)をするおそれを現に生じさせるものであること |
| 第2号 | 破産者が、その行為の当時、対価として得た金銭について隠匿等の処分をする意思を有していたこと |
| 第3号 | 相手方(ファクタリング会社)が、その行為の当時、破産者にその意思があったことを知っていたこと |
ここから読み取れること
3つすべてが必要なので、否認のハードルは低くありません。とくに第2号は「得た現金を隠したり、無償で誰かに渡したりするつもりだったか」を問うものです。
つまり、相当な対価で譲渡し、その資金を仕入代金や給与、税金の支払いに充てていたなら、第2号に当たりません。事業を続けるために使った資金は、隠匿等の処分ではないためです。
注意すべき推定規定
161条第2項は、相手方が一定の者(破産者が法人の場合の取締役・監査役など、また親会社等の関係者)であるときは、第3号の「知っていた」ことを推定すると定めています。
関連会社や役員個人が売掛金を買い取るような取引は、この推定が働きます。第三者であるファクタリング会社との通常の取引とは、扱いが異なります。
資金の使い道が分かれ目になる
161条の要件から分かるのは、売ったこと自体より、得た資金をどうしたかが問われるということです。
| 資金の使い道 | 評価の傾向 |
|---|---|
| 仕入代金・給与・家賃・税金の支払い | 事業の継続のための支出。隠匿等の処分に当たりにくい |
| 使い道が帳簿から追えない | 説明が難しくなる |
| 経営者個人や親族への支払い | 隠匿・無償の供与を疑われやすい |
| 特定の債権者にだけ返済 | 162条の偏頗行為の否認が別に問題になる |
特定の債権者への返済は別の問題になる
破産法162条第1項は、既存の債務についての担保の供与や債務の消滅に関する行為のうち、支払不能になった後または破産手続開始の申立てがあった後にしたものを否認の対象としています(債権者がその事実を知っていた場合に限る)。
ファクタリングで得た資金で、付き合いの長い取引先にだけ返済する。この行為が162条の対象になりえます。債権者を公平に扱うことが破産手続の前提だからです。
買取価額が低すぎる場合は160条の問題になる
161条は「相当の対価を取得しているとき」の規定です。対価が相当でなければ、より要件のゆるい160条が適用されます。
破産法160条第1項は、次の2つを否認の対象としています。
- 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(相手方が知らなかった場合を除く)。
- 支払の停止または破産手続開始の申立てがあった後にした、破産債権者を害する行為(相手方がそれを知らなかった場合を除く)。
161条が3要件すべてを求めるのに対し、160条は「害することを知っていた」ことが中心です。買取価額が著しく低いほど、161条ではなく160条の土俵に乗りやすくなります。
| 条文 | 前提 | 否認のハードル |
|---|---|---|
| 161条 | 相当の対価を得ている | 3要件すべてが必要。高い |
| 160条 | 対価が相当でない、または害する行為 | 害することの認識が中心。161条より低い |
条件の妥当性が、どちらの条文で判断されるかを左右します。複数社から見積もりを取る意味はここにあります。
破産管財人は何を見るか
破産手続に入ると、管財人が過去の取引を調べます。ファクタリングについて確認されるのは次の点です。
| 確認されること | 用意しておく資料 |
|---|---|
| いつの取引か | 契約書、入金の記録 |
| 買取価額は相当だったか | 見積書(複数社分があるとよい) |
| 得た資金を何に使ったか | 帳簿、振込の記録、請求書 |
| 誰に支払ったか | 支払先の一覧、支払日 |
| そのとき支払不能だったか | 資金繰り表、試算表 |
隠す必要はありません。むしろ、資料を整理して提出できるほうが手続きは早く進みます。説明できない資金の動きがあると、調査が長引きます。
管財人は債権者のために財産を集める立場ですが、事業者を責めるために調べているわけではありません。事実を整理して示せば、否認するかどうかの判断も早くなります。取引の当時に作った資料がそのまま根拠になるため、日々の帳簿づけを続けておくことが結果的に自分を守ります。
期間の制限(破産法166条)
破産法166条は、次のように定めています。
破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為(第百六十条第三項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。
つまり、破産の申立てより1年以上前の取引は、「支払停止後だった」という理由では否認できません。時間の経過には意味があるということです。
民事の詐害行為取消権(民法424条)
破産手続に入らなくても、個々の債権者が取引の取り消しを求めることがあります。民法424条第1項の要件は次のとおりです。
- 債務者が、債権者を害することを知って行為をしたこと。
- 受益者(買い取った側)が、その時点でそれを知っていたこと。知らなければ取り消せない。
- 取り消しを求める債権が、その行為より前の原因で生じたものであること(同条第3項)。
- 強制執行で実現できない債権では請求できない(同条第4項)。
破産手続が始まれば否認権の枠組みに移りますが、それ以前は債権者が個別に請求することになります。
取締役個人の責任
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 会社法423条 | 役員等が任務を怠ったとき、会社に生じた損害を賠償する責任を負う |
| 会社法429条 | 役員等が職務を行うについて悪意または重大な過失があったとき、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う |
429条の「第三者」には債権者が含まれます。会社の判断であっても、取締役個人が債権者から責任を追及される可能性があります。重要な判断は取締役会で議論し、議事録を残しておいてください。
破産を選ぶ場合の順序
破産が現実的な選択肢になった段階では、資金を作る順序を間違えないことが重要です。
| 順序 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 弁護士に相談する | 申立ての時期と、それまでに何をしてよいかが決まる |
| 2 | 資産と負債を一覧にする | 売掛金・在庫・預金と、債権者ごとの残高を把握する |
| 3 | 支払いの優先順位を決める | 偏頗行為の否認(162条)を避けるため、弁護士と決める |
| 4 | 必要な資金だけを手当てする | 給与や税金など、優先度が定まっているものを確認する |
この順序を逆にして、先に資金を作ってから相談すると、すでに行った支払いが問題になることがあります。申立ての予定があるなら、支払う前に相談してください。
従業員の給与は扱いが異なる
従業員の給与債権は、破産手続のなかで他の債権より優先して扱われる部分があります。どこまでをいつ支払うべきかは、弁護士に確認してください。自己判断で一部だけ支払うと、かえって整理が複雑になることがあります。
実務で気をつけること
記録を残す
- 資金繰り表(いつ、いくら不足するか)。
- 資金の使い道が分かる帳簿と振込の記録。
- 複数社から取った見積書(対価が相当だったことの裏づけ)。
- 取締役会の議事録。
- 弁護士に相談した記録。
否認の判断では、取引の当時に何を考えていたかが問われます。後から作った説明より、その時点の記録のほうが説得力を持ちます。
条件が相当かを確かめる
161条は「相当の対価を取得しているとき」の規定です。買取価額が債権額に比べて著しく低ければ、そもそも160条(詐害行為の否認)の対象になりえます。複数社の見積もりを取り、条件を比べてください。見積もりが1社分しかないと、その価額が相当だったことを示す材料が残りません。
使い道を分けて管理する
得た資金を、事業の支払いと個人的な支出で混ぜないでください。帳簿上で追えなくなると、説明ができなくなります。事業用の口座に入金し、そこから支払う形にしておけば、入出金の記録がそのまま説明の材料になります。個人の口座を経由させると、経緯を示すのに余計な手間がかかります。
よくある質問
破産直前にファクタリングを使うのは違法ですか
違法ではありません。ただし破産手続に入れば、管財人が否認できるかを検討します。相当な対価で譲渡し、得た資金を事業の支払いに充てていれば、破産法161条の3要件のうち第2号に当たらない可能性が高くなります。
否認されるとどうなりますか
譲渡した売掛金は破産財団に戻ります。ファクタリング会社は支払った対価の返還を請求できますが、破産手続のなかでの扱いになります。
得た資金で買掛金を払ったら問題ですか
事業の継続に必要な支払いであれば、161条第2号の「隠匿等の処分」には当たりにくいと考えられます。ただし、支払不能になった後に特定の債権者にだけ返済すると、162条の偏頗行為の否認が別に問題になります。どの支払いを優先するかは弁護士に確認してください。
いつの取引まで遡って否認されますか
破産法166条により、破産申立ての日から1年以上前の行為は「支払停止後だった」という理由では否認できません。ただし、他の理由による否認まで排除されるわけではありません。
ファクタリング会社は否認を予想していますか
取引の経緯を確認する会社もあります。債務の状況や資金の使い道を尋ねられた場合は、正確に答えてください。事実と異なる説明で契約すると、後の手続きで不利に働きます。また、事情を聞いたうえで著しく低い価額を提示する会社とは、取引を見送るほうが安全です。
すでに使ってしまいました。取り消されますか
買取価額が相当で、得た資金を仕入代金・給与・税金などの支払いに充てていたのなら、破産法161条の第2号(隠匿等の処分をする意思)に当たらない可能性があります。契約書・見積書・帳簿を揃えて弁護士に相談してください。隠さずに提出することが前提になります。
関連会社に売掛金を譲渡する場合は
161条第2項の推定規定が働きます。相手方が破産者の取締役や親会社等にあたる場合、「隠匿等の処分の意思を知っていた」と推定されます。第三者との取引より否認されやすくなります。
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まとめ
破産直前のファクタリングは、それ自体が違法な行為ではありません。問題になるのは、破産手続に入ったときに否認されるかどうかです。
相当な対価での譲渡について、破産法161条は3つの要件すべてを求めています。なかでも第2号は「得た資金を隠したり無償で渡したりするつもりだったか」を問うものです。事業の支払いに充てていれば、この要件には当たりにくくなります。
したがって実務で大切なのは、相当な条件で譲渡することと資金の使い道を記録に残すことの2つです。特定の債権者にだけ返済すると162条の問題が別に生じるため、支払いの優先順位は弁護士と決めてください。