不渡り後の資金繰り|取引停止までの6か月で何をするか
手形の不渡りを1回起こすと、6か月以内に2回目を起こした時点で取引停止処分になり、2年間は当座預金取引と貸出取引ができなくなります。この6か月で何を判断するのか、ファクタリングを使う場合の論点、相談先を、全銀協・金融庁の一次情報をもとに整理します。
手形の不渡りを起こすと、次に考えるべきは6か月という期限です。この期間内に2回目の不渡りを出すと取引停止処分になり、2年間、参加銀行との当座預金取引と貸出取引ができなくなります。事実上、事業の継続が難しくなる段階です。
この記事では、制度の仕組みを全銀協の一次情報で確認したうえで、6か月の間に何を決めるのか、ファクタリングを使う場合にどんな論点があるのかを整理します。経営危機の段階ごとの考え方は 経営危機×ファクタリング判断フレーム にまとめています。判断は弁護士・公認会計士への相談を前提とした論点整理です。
取引停止処分の仕組み
手形交換所から電子交換所へ
手形の交換は、2022年11月から電子交換所で行われています。それまでの手形交換所での実物のやり取りは終了し、手形のイメージデータを送受信する方式に移行しました。制度の詳細は全国銀行協会の 電子交換所 のページで確認できます。
2回で取引停止になる
電子交換所は、手形・小切手の健全な利用を確保するため、取引停止処分の制度を運営しています。
| 段階 | 起きること |
|---|---|
| 1回目の不渡り | 不渡報告に掲載される。参加銀行が情報を共有する |
| 6か月以内の2回目 | 取引停止処分。その後2年間、参加銀行との当座預金取引と貸出取引ができない |
「6か月以内」は、1回目の不渡情報登録にかかる手形の交換日から起算して6か月後の応当日の前日までを交換日とする手形が対象になります。規則の本文は 電子交換所規則 で確認できます。
取引停止処分の重さ
当座預金取引ができなくなると、手形・小切手を振り出せなくなります。貸出取引も止まるため、新規の融資も受けられません。これが2年間続きます。処分後の選択肢は 銀行取引停止処分後の選択肢 で扱っています。
6か月の間に決めること
1回目の不渡りを起こした時点で、残された時間は6か月です。この間に決めるべきことは2つあります。
1. 事業を続けるのか、整理するのか
| 方向 | 主な手段 | 向いている状況 |
|---|---|---|
| 事業を続ける | 金融機関とのリスケ交渉、中小企業活性化協議会への相談、私的整理 | 本業に採算性が残っており、支援が見込める |
| 法的に整理する | 民事再生、特別清算、破産 | 債権者が多数、または交渉がまとまらない |
この判断を先送りにすると、6か月後に選択肢が減ります。資金を手当てすることと、方向を決めることは別の作業です。
2. 誰に相談するか
不渡りの情報は参加銀行で共有されるため、メインバンクは既に把握しています。隠す意味はありません。早めに状況を伝え、リスケジュールの相談を始めるほうが選択肢は広がります。報告の時期については メインバンクへの事前報告タイミング で扱っています。
6か月をどう使うか
期限から逆算すると、動く順序が決まります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 1〜2週間以内 | 資金繰り表を週単位で作り直す。次に支払期日が来る手形・買掛金を洗い出す |
| 1か月以内 | メインバンクへ状況と対応方針を説明する。弁護士・中小企業活性化協議会へ相談する |
| 2〜3か月 | 事業を続けるか整理するかの方向を決める。続けるなら経営改善計画を作る |
| 4〜6か月 | 決めた方向に沿って手続きを進める。2回目の不渡りを避ける資金手当てを固める |
最初の2週間が最も重要です。次に落ちる可能性のある手形がいつ、いくらあるかを把握しないと、何も決められません。振り出した手形の一覧と支払期日を並べ、それぞれの期日に必要な残高を書き出してください。そのうえで、どの期日が危ないかを特定します。危ない期日が2か月先なら、まだ打てる手があります。翌週なら、選べる手段は限られます。
取引先への影響を見込んでおく
不渡りの事実は、取引先に伝わることがあります。次のような動きを想定しておいてください。
- 仕入先から現金での前払いを求められる。
- 取引の与信枠を下げられる、または取引を止められる。
- 売掛先から支払方法の確認を受ける。
仕入条件が現金に変わると、必要な運転資金が一段と増えます。資金繰り表には、この変化も織り込んでください。不渡りの直後は、手元の資金が足りないところに支払条件の悪化が重なるため、想定より早く資金が尽きることがあります。
売掛先については、支払いを止められることは通常ありません。ただし、新規の受注を控えられると翌月以降の入金が細ります。主要な取引先には、事業を続ける方針であることを早めに伝えておくほうが、関係を保ちやすくなります。
ファクタリングを使う場合の論点
売掛金の早期資金化は、緊急の資金確保として選択肢になります。ただし、この局面では通常と異なる論点があります。
後から取引が巻き戻る可能性
その後に破産手続が始まった場合、破産管財人が過去の取引を否認できます。破産法第160条第1項は次の2つを否認の対象としています。
- 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(相手方が知らなかった場合を除く)。
- 支払の停止または破産手続開始の申立てがあった後にした、破産債権者を害する行為(相手方がそれを知らなかった場合を除く)。
不渡りは「支払の停止」と評価されうる事実です。つまり、不渡り後の取引は2つ目の類型に当たる可能性があります。否認されると、譲渡した債権は破産財団に戻ります。詳しくは 破産直前のファクタリング利用は違法か を参照してください。
債権者の間の公平
私的整理や法的整理では、債権者を公平に扱うことが前提になります。特定の債権者にだけ支払う行為は、後から問題になります。ファクタリングで得た資金を特定の支払いに充てる場合、その配分が適切かを弁護士に確認してください。私的整理との関係は 私的整理(事業再生ADR)併用 で扱っています。
手数料が経営を圧迫しないか
資金を得ても、手数料の負担で翌月の資金繰りがさらに厳しくなるなら、問題を先送りしているだけです。1回限りの手当てで立て直せる見通しがあるかを、数字で確認してください。
取締役の判断として説明できるか
会社の重要な判断は、取締役会での議論を経ておくほうが安全です。会社法第429条は、役員等が職務を行うについて悪意または重大な過失があったとき、第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。この「第三者」には債権者が含まれます。説明責任については 取締役会・株主への説明責任 を参照してください。
使う前に確認する5点
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 買取価額が債権額に対して妥当か | 著しく低いと、偽装や不利益な譲渡として問題になりうる |
| 償還請求権(買戻し義務)の有無 | 付いていれば実質が貸付けと評価されうる |
| 手数料と付帯費用の内訳 | 総額だけでは実質的な負担を他社と比べられない |
| 得た資金を何に充てるか | 債権者の間の公平が問われる |
| 弁護士に相談済みか | 事業の方向が決まっていないと、後から取引が問題になりうる |
このうち最初の2点は契約書と見積書で確認できます。内訳を示さない会社は、条件の比較もできないため避けてください。
悪質な勧誘への警戒
不渡りを起こした事業者は、違法な業者の標的になりやすい状況にあります。金融庁は ファクタリングの利用に関する注意喚起 で、次のように述べています。
近時、ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者の存在が確認されています。
偽装が疑われるサイン
| サイン | なぜ問題か |
|---|---|
| 買取価額が債権額に比べて著しく低額 | 金融庁が偽装ファクタリングの疑いとして挙げている |
| 償還請求権(買戻し義務)が付いている | リスクが移転しておらず、実質が貸付けと評価されうる |
| 「破産しても返済義務はない」と説明する | 法的判断を業者が保証できる立場にない |
| 法的整理を思いとどまらせようとする | 利用者の利益ではなく自社の回収を優先している |
給与ファクタリングには手を出さない
従業員の給与債権を買い取る「給与ファクタリング」について、金融庁は次の見解を示しています。
業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは、貸金業に該当します。
貸金業の登録を受けずにこれを行う業者は違法です。金融庁は、年率に換算すると数百%から千数百%になる手数料を支払わされた事例や、悪質な取立てによる生活破綻のリスクにも触れています。事業資金の相談中にこうした取引を勧められたら、その業者との取引自体を見直してください。
相談できる窓口
| 窓口 | 相談できること |
|---|---|
| 中小企業庁(事業再生・中小企業活性化協議会) | 再生支援の枠組みと各県の協議会の案内 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 法律相談の案内。条件を満たせば無料相談・費用の立替えを利用できる場合がある |
| 日本弁護士連合会 | 各地の弁護士会と法律相談センターの案内 |
| 日本商工会議所 | 各地の商工会議所の経営相談窓口 |
| 日本税理士会連合会 | 税務の相談先、各税理士会の案内 |
受付時間や条件は変わることがあるため、各機関の公式サイトで確認してください。
よくある質問
1回目の不渡り後にファクタリングを使ってよいですか
契約自体が禁じられているわけではありませんが、不渡りは「支払の停止」と評価されうるため、後の破産手続で否認の対象になる可能性があります。使う前に弁護士へ状況を伝え、事業の方向(継続か整理か)とあわせて判断してください。
取引停止処分を受けるとどうなりますか
2年間、参加銀行との当座預金取引と貸出取引ができなくなります。手形・小切手を振り出せず、新規の融資も受けられません。事業の継続が難しくなるため、1回目の不渡りの時点で対応を始める必要があります。
メインバンクには報告すべきですか
不渡りの情報は参加銀行で共有されるため、すでに把握されています。報告するかどうかではなく、次に何をするかを伝えることが実務です。改善の見通しと必要な支援を整理して相談してください。
「不渡りでも使える」と勧誘されました
その業者が何を根拠に言っているのかを確認してください。金融庁は、ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者の存在に注意を促しています。買取価額が債権額に比べて著しく低い場合は、とくに注意が必要です。
取引停止処分を受けた後でもファクタリングは使えますか
ファクタリングは銀行取引ではないため、処分を受けた事業者が利用すること自体は妨げられません。審査で見られるのは主に売掛先の信用力だからです。ただし、この段階では事業の継続そのものが論点になっています。資金を手当てする前に、法的整理を含めた方向を弁護士と決めてください。処分後の選択肢は 銀行取引停止処分後の選択肢 にまとめています。
資金繰り表はどこまで細かく作りますか
この局面では週単位で作ってください。月単位では、月内のどの日に資金が足りなくなるかが見えません。入金の予定日と、手形・買掛金・給与・社会保険料の支払日を並べ、残高がマイナスになる日を特定します。その日までに何をするかが、当面の行動計画になります。
1回目の不渡りの記録はいつまで残りますか
取引停止処分を受けた場合、その効力は2年間続きます。1回目の不渡りだけで処分に至らなかった場合も、参加銀行の間で情報は共有されています。処分の詳しい取り扱いは、取引銀行または電子交換所の規則で確認してください。
給与ファクタリングを勧められました
利用しないでください。金融庁は、賃金債権を買い取って金銭を交付し、本人を通じて回収する行為は貸金業に該当するとの見解を示しています。登録のない業者が行えば違法です。
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まとめ
1回目の不渡りを起こしたら、残り時間は6か月です。この期間に2回目を出すと取引停止処分となり、2年間は当座預金取引も貸出取引もできなくなります。
この6か月で決めるのは、事業を続けるのか整理するのかという方向です。資金の手当てはその後に来ます。順序を逆にすると、選べる道が減ります。
ファクタリングを使う場合は、不渡りが「支払の停止」と評価されうること、破産時に否認の対象になりうること、債権者の間の公平が問われることを踏まえてください。そして、買取価額が債権額に比べて著しく低い提案には応じないでください。まずは弁護士か中小企業活性化協議会へ相談することをおすすめします。