売掛金の差し押さえとは|流れ・取引先の対応・ファクタリングとの関係
売掛金の差し押さえは、裁判所の強制執行と税務署などの滞納処分の2通りで、取引先に通知が届いた時点でその売掛金は回収も売却もできなくなります。予告なく届く理由、差し押さえられた側と取引先がすること、ファクタリングとの優劣(対抗要件の先後)、換価の猶予を、民事執行法・国税徴収法の条文で整理しました。
「取引先から、うちへの支払いを止めるよう裁判所から通知が来たと連絡があった」「税務署の差押えで、今月の売掛金が入らない」。売掛金の差し押さえは、ある日突然、取引先を通じて知ることが多い手続きです。
先にお伝えすると、売掛金の差し押さえには裁判所の強制執行と税務署などの滞納処分の2通りがあり、どちらも取引先に通知が届いた時点で、その売掛金は回収も売却もできなくなります。ファクタリングとどちらが優先するかは、通知と譲渡の手続きの先後が分かれ目です。
この記事では、差し押さえの流れとタイミング、差し押さえられた側と取引先それぞれがすること、ファクタリングとの優劣を、民事執行法・国税徴収法などの条文で整理します。読み終えるころには、手元の通知を見て次に何をすればよいかが分かるはずです。
結論:差し押さえは「裁判所」と「税務署」の2通り。取引先に届いた時点で売掛金は止まる
売掛金の差し押さえは、売掛金を持つ人(債務者)ではなく、その支払いをする取引先(第三債務者)に通知を届けて行います。2通りの違いは次のとおりです。
| 種類 | 誰が行うか | 始まる条件 | 効力が生じる時 | 取り立て |
|---|---|---|---|---|
| 強制執行(債権差押え) | 債権者が裁判所に申し立てる | 確定判決・公正証書などの債務名義がある(民事執行法22条) | 差押命令が取引先に送達された時(145条5項) | 債務者への送達から1週間たつと、債権者が取引先から取り立てられる(155条) |
| 滞納処分(国税の差押え) | 税務署の徴収職員 | 督促状を発した日から10日を過ぎても完納しない(国税徴収法47条) | 差押通知書が取引先に送達された時(62条) | 徴収職員が取引先から取り立てる(67条) |
判決などの前でも、強制執行ができなくなるおそれがあるときは、裁判所の仮差押命令で先に支払いを止められることがあります(民事保全法20条)。当サイトはファクタリング会社の掲載209社を第三者の立場で比較しているメディアで、ここではファクタリングを使う事業者の目線で整理します。仕組みの基本は請求書ファクタリングとは?仕組み・メリット・デメリットを整理をご覧ください。
差し押さえは予告なく届くことがある:流れとタイミング
裁判所の差押命令は、債務者と取引先の言い分を聞かずに発せられ(民事執行法145条2項)、債務者と取引先の両方に送られます。そのため、申立てを事前に知らされないまま、取引先から先に連絡が来ることも珍しくありません。税金の場合は、納期限までに払わないと督促状が届き、その督促状を発した日から10日を過ぎると差し押さえの対象になります。
| 段階 | 裁判所の差押え | 税務署の差押え |
|---|---|---|
| 前の段階 | 訴訟や支払督促で、判決などの債務名義が作られる | 納期限を過ぎると、納期限から50日以内に督促状が発せられる(国税通則法37条) |
| 差し押さえ | 債権者の申立てで差押命令が出て、取引先に届いた時に効力 | 督促状を発した日から10日を過ぎても完納しないと、差押通知書が取引先に届く |
| その後 | 債務者への送達から1週間後に、債権者が取引先から取り立てる | 徴収職員が取引先から取り立て、その分の税金を納めたものとみなす |
自分の売掛金が差し押さえられたとき
差押命令は、債務者に売掛金の取立てやその他の処分を禁じ、取引先に債務者への支払いを禁じます(民事執行法145条1項)。差し押さえられた売掛金は取引先から受け取れず、ファクタリングで売る対象にもなりません。
- 差押命令・差押通知書に書かれた債権と金額を確かめる
- 取引先に事情を説明し、支払いの扱いをそろえる
- 税金なら所轄の税務署(徴収担当)に、猶予を相談する
- 裁判所の差押えなら、債権者との交渉を弁護士に相談する
- 差し押さえられていない別の売掛金と、今後の入金予定を洗い出す
国税の場合は、差押えのあとでも、要件を満たせば換価の猶予で差し押さえた財産の換価(売却)が猶予され、延滞税も軽減される場合があります(国税庁「猶予制度の案内」・令和7年4月)。裁判所の差押えへの対応と弁護士への相談の仕方は、ファクタリングの弁護士相談|頼むべき場面・できること・費用で整理しています。
取引先に差押命令・差押通知書が届いたとき
売掛先として差押命令を受け取った会社は、届いた時点から、その代金を元の取引先に払ってはいけません。払ってしまうと、差押えをした債権者に対して二重に払うことになりかねません。
| すること | 根拠 |
|---|---|
| 元の取引先への支払いを止める | 民事執行法145条1項(弁済の禁止) |
| 裁判所から陳述の催告があれば、送達の日から2週間以内に債権の有無などを答える。答えなかったり事実と違う陳述をしたりすると、損害を賠償する責任を負う | 民事執行法147条 |
| 債務者への送達から1週間たったら、差押えをした債権者に支払う。迷うときは全額を供託できる | 民事執行法155条・156条 |
| 税務署の差押通知書なら、徴収職員の指示に従って支払う | 国税徴収法67条 |
同じ売掛金について、ファクタリング会社からの債権譲渡通知と差押命令の両方が届くこともあります。どちらに払うべきか判断がつかないときは、全額を供託所に供託するのが、民事執行法156条で認められた方法です。
ファクタリングと差し押さえ:どちらが優先するか
答えは、差し押さえの前に売ったか後に売ったか、売ったときに対抗要件を備えていたかで決まります。
差し押さえの後に売った売掛金
差し押さえの後は、債務者による売掛金の処分が禁じられているので、ファクタリングで売っても差押えをした債権者には対抗できません。差押通知が届いたと分かった売掛金をファクタリングに出すのは避けてください。
差し押さえの前に売っていた売掛金
差し押さえより前にファクタリングで売っていた場合は、譲渡の対抗要件と差押えのどちらが先に取引先に届いたかで優劣が決まります。対抗要件とは、確定日付のある証書による売掛先への通知か売掛先の承諾(民法467条2項)、または債権譲渡登記(動産・債権譲渡特例法4条1項)のことです。国税の差押えについては、国税庁の通達がこの先後で決まると示しています(国税徴収法基本通達 第62条関係)。
| ケース | 優先するもの |
|---|---|
| 差し押さえより先に、確定日付のある通知が届いた・承諾を得た・債権譲渡登記をした | ファクタリング会社(譲受人)が優先しうる |
| 差押命令・差押通知書のほうが先に取引先に届いた | 差し押さえが優先する |
| 2社間で、売掛先への通知も債権譲渡登記もしていない | 差し押さえに対抗できない |
| 国税で、同時に届いた・先後が分からない | 債権額で案分する(国税庁の通達) |
ただし、買戻しの約束があるなど実質が貸付けと評価される取引は、滞納者の財産で税金が足りないとき、譲渡した債権から国税を徴収されることがあります(国税徴収法24条)。2社間の契約書には、差し押さえがあったときの取り決めが書かれていることもあるので、あわせて確かめてください。
差し押さえられていない別の売掛金
差し押さえられていない別の売掛金は、ファクタリングで売ることができます。ただし、債権者を害することを知って財産を手放す行為は、詐害行為として裁判所に取り消されることがあるので(民法424条)、差し押さえを逃れる目的で売掛金を移すのは避けてください。二重に売ってしまう危険はファクタリングの二重譲渡リスク|詐欺罪・横領罪に問われる可能性と防ぎ方で詳しく扱っています。
差し押さえを避けるために、先にできること
差し押さえは、その前の段階(督促状・訴状・支払督促)で動けば避けられることがあります。通知を放置しないことが、いちばんの予防策です。
税金の場合:督促状の段階で税務署に相談する
国税の換価の猶予は、一時に納めると事業の継続が難しくなるおそれがあり、納税に誠実な意思があるなどの要件を満たせば、納期限から6か月以内の申請で原則1年(最長2年)受けられます。猶予中は延滞税が軽減され、財産の差押えや換価が猶予されます。原則として担保が必要ですが、担保の提供で事業の継続に著しい支障が出るおそれがあれば不要です。
裁判所の差押えの場合:訴状や支払督促が届いた段階で動く
強制執行には判決や仮執行の宣言が付いた支払督促、強制執行を受け入れる文言のある公正証書などの債務名義が必要です。訴状や支払督促が届いた時点で、分割払いなどの和解を相手と話し合えば、差し押さえに進む前に解決できる場合があります。
資金繰りの立て直しと相談先
差し押さえが続く状況では、1つの売掛金をどうするかより、資金繰り全体を立て直す判断が先です。段階ごとの選択肢は経営危機×ファクタリング判断フレーム|段階別の選択肢と法的整理併用の留意点、税金の滞納中にファクタリングを使うときの注意は税金滞納中でもファクタリングは可能か:審査への影響と注意点をあわせてご覧ください。
自分が差し押さえる側のとき:取引先が払わない売掛金を回収する
取引先が売掛金を払わないとき、その取引先がさらに別の会社に持っている売掛金を差し押さえて回収する方法があります。流れは次のとおりです。
| 段階 | すること |
|---|---|
| 1 債務名義を得る | 訴訟の判決、仮執行の宣言が付いた支払督促、強制執行を受け入れる文言のある公正証書など |
| 2 差し押さえる債権を特定する | 相手がどの会社に売掛金を持っているかを調べる |
| 3 差押命令を申し立てる | 裁判所が差押命令を出し、相手と相手の取引先に送る |
| 4 取り立てる | 相手への送達から1週間たつと、相手の取引先から直接取り立てられる(自分の債権と執行費用の額まで) |
判決を待つ間に相手が財産を処分しそうなときは、仮差押えで先に支払いを止める方法もあります。支払いが遅れ始めた段階の回収の手順は取引先の支払い遅延|60日までの回収手順と資金繰り対策、取引先が倒産したときは取引先倒産で売掛回収不能になった時の資金確保|倒産発生直後の対応をご覧ください。
差し押さえられていない売掛金で資金を作るときの比べ方
差し押さえを逃れる目的でなく、別の売掛金で当面の資金を作るときは、対抗要件の扱い(3社間か、2社間で債権譲渡登記をするか)と手数料・入金スピードを並べて比べてください。
- 3社間ファクタリングに対応する会社を一覧で見る
- 最短即日の入金に対応する会社を一覧で見る
- 低手数料帯(上限の平均2%)の会社を見る
- 標準手数料帯(上限の平均5%)の会社を見る
- 高手数料帯(上限の平均20%)の会社を見る
よくある質問
売掛金の差し押さえとは何ですか?
売掛金を支払う取引先に通知を送り、売掛金を持つ人がその代金を受け取ったり処分したりすることを禁じる手続きです。裁判所が行う強制執行と、税務署などが行う滞納処分の2通りがあり、取引先に届いた時に効力が生じます。
差し押さえられた売掛金はファクタリングできますか?
できません。差押命令は売掛金の取立てや処分を禁じるので(民事執行法145条1項)、売っても差押えをした債権者に対抗できません。差し押さえられていない別の売掛金は売れますが、差し押さえを逃れる目的の譲渡は詐害行為として取り消されることがあります。
差し押さえは、いきなり行われることがありますか?
裁判所の差押命令は、債務者の言い分を聞かずに発せられるので、事前の連絡なく取引先に届くことがあります(民事執行法145条2項)。ただし、その前に判決や支払督促などの債務名義が必要です。税金は、督促状を発した日から10日を過ぎても完納しないと差し押さえられます(国税徴収法47条)。
個人事業主の売掛金も差し押さえられますか?
差し押さえられます。差し押さえてはならない範囲を定めた民事執行法152条が挙げるのは、給料・賃金・退職年金などとその性質を持つ給与で、売掛金は挙げられていません。業務委託の報酬が給料に近い性質を持つ場合などの扱いは個別に判断されるので、弁護士に確かめてください。
取引先に差押命令が届いたら、どうすればいいですか?
取引先は、元の取引先への支払いを止め、裁判所から陳述の催告があれば2週間以内に答えます。債務者への送達から1週間たったら差押えをした債権者に支払うか、全額を供託します(民事執行法147条・155条・156条)。売掛金を差し押さえられた側は、取引先と連絡を取り、支払いの扱いをそろえてください。
税金の差し押さえを止める方法はありますか?
要件を満たせば、換価の猶予を申請できます。一時に納めると事業の継続が難しくなるおそれがあることなどが要件で、納期限から6か月以内に申請すれば原則1年(最長2年)猶予され、延滞税が軽減されます。まず所轄の税務署の徴収担当に相談してください。
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まとめ
売掛金の差し押さえは、裁判所の強制執行と税務署などの滞納処分の2通りで、どちらも取引先に届いた時点でその売掛金は回収も売却もできなくなります。ファクタリングとの優劣は、譲渡の対抗要件と差し押さえのどちらが先に届いたかで決まり、税金なら督促状、裁判所なら訴状や支払督促の段階で動けば差し押さえを避けられることがあります。